ねぼすけはサンタクロースになんかなれない

315プロダクションのクリスマスパーティは今年も大成功に終わった。天道はその夜、桜庭の手を引いて帰った。人の集まりは楽しさを作り出すが、同時に体力も奪っていく。
 先に風呂に入った桜庭は、天道が風呂からあがるより少し先に眠りに落ちていた。

 翌日の朝、天道が隣で眠る桜庭を揺さぶっていた、
「桜庭いいかげん起きろよー」
 桜庭は小さなうめき声を上げながら、瞼をかろうじて上げたり下げたりしている。
「サンタ来てるぞ、サンタ!」
「……さんた?」
 桜庭の瞼が先ほどより2mm持ちあがる。それでも全開には程遠い。
「青だからお前宛てだろ?」
 仰向けで横たわったままの桜の顔の上で、天道が水色の包装紙に包まれた箱を振る。十字にかかり真上で飾り結びになっているリボンは綺麗な青色だ。
 顔の真上で揺れる箱を眺めていた桜庭は、ゆっくりと掛け布団から腕を抜く。両手で受け取ると、やはりぼうっとしたまま眺めていた。
「あけないのか?」
「何だこれは」
「だからプレゼントだろ?サンタからの」
 俺が起きたら枕元に置いてあったぞ、と天道が笑った。
 掛け布団ごしにぽすりと腹の上に箱を置いて、桜庭は上半身を持ち上げだした。
「もう26だぞ」
 上半身が完全に起き上がる直前で、箱は少しだけ転がって桜庭の腿へ落ちた。気にする様子も無くそのままゆっくりとリボンを解き始める。包装紙を剥がす手つきはおぼつかないが、それでも元の几帳面さがにじみ出ていた。
 時間をかけて現れた白い箱の蓋が開かれた。赤と青のマグカップ綺麗に二つ並んで収められている。桜庭は青い方を手にとって、回しながら数秒眺めたのちに、それを天道へ差し出した。
「コーヒー」
「……俺も飲みたいんですけど」
 天道が受け取りながら呟く。
「仕方がない。貸してやる」
「何だよそれ」
「両方とも僕のものだろう。サンタから僕への贈り物なのだから」
 天道は小さくため息をついて適当な返事をしながらベッドから抜け出した。
 桜庭は天道が部屋の外へ出ていったのを見届けると、1分もしないうちに座ったまま舟を漕ぎだした。

 戻ってきた天道は笑いながらカップをヘッドボードへ置いた。そして15分前のようにまた桜庭を揺すった。
 先ほどよりは簡単に目を覚ました桜庭へ青いカップを持たせてやる。
「今日なにする?」
 ベッドへ腰かけた天道も赤いカップを手にとって飲みだした。
「……何って、買い物だろう」
「何買うんだよ」
「別に何でもいい」
 桜庭は両手でしっかり持ったカップから、砂糖入りのコーヒーをちびちびと飲んでいる。
「サンタからプレゼントを貰えなかった可哀想な中年がいるからな」
「買ってくれるのか?」
「今年だけだ」
 反射的に天道は桜庭を見たが、桜庭は顔も上げずにカップを眺めたままだった。
「来年からはサンタに貰えるよう努めることだ」
 はいはい、と適当に返事をして天道は笑う。
 どうせ来年もサンタなんか来ないだろうと思いながら。