輝ける星二つ

 気象庁が東京都の梅雨入りを発表したのは一週間前のことだった。今夜も厚い雲に覆われており、小さな雨粒が降り注いでいる。ソファに座って台本を読んでいる桜庭の顔に向かって、隣に座る天道が手を伸ばした。
「邪魔なんだよなあ」
 そう呟いて天道は桜庭のメガネを取った。突然視界がぼやけた桜庭は抗議した。
「何をするんだ。読めないだろう」
「いやほら、雨だから」
 天道はそれだけ言って桜庭の目をじっと見ていた。
「意味が分からない。なんで雨だと僕のメガネを外すんだ」
「昔、明くる日のヒロインってアニメがあってさ。主人公がヒロインのことを星の瞳のお姫様って呼ぶんだけど」
 おんなじ色なんだよなあ、と目を合わせたまま天道は呟いた。
「勝手に人の目を代替品にするな」
 桜庭は、天道の手からひったくるようにメガネを奪ってかけ直す。黒いふちとつるのせいで、隣に座る天道からはまた見えなくなってしまった。
「いいだろ別に。減るもんじゃないし」
「僕は台本を読んでいるんだ。邪魔なのは君のほうだろう」
 再度持ち直した台本へさっさと視線を落とす桜庭の隣で天道は拗ねた顔をした。
 そのまま横顔を見続けたが、桜庭は一向に反応してくれない。天道は諦めてため息をつくと桜庭にもたれ掛かった。
「いいよ別に。後でたくさん見せてもらうから」
 怪訝な顔をした桜庭を無視して、天道はローテーブルに置かれている空のカップを二つとも手に取って立ち上がった。
「むしろ暗いほうが綺麗に見えるし」
 キッチンへ向かって歩いていく天道の背中を眺めながら桜庭は首を傾げた。そして三秒後に意味を理解し、背中へ向かってクッションを投げつけた。
「僕は今日、さっさと寝るからな!」
「寝かさないので問題ないでーす」
 背中に当たったクッションなど物ともせず天道は飄々と答えた。

「明日も一日中振りそうですね」とテレビの中のキャスターが言ったが、二人の耳には届かなかった。